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東京地方裁判所 昭和52年(モ)13551号 決定

主文

被申立人は、本決定送達の日から七日以内に、金一一六万円を供託することを命ずる。

理由

一本件申立の要旨は、

「(一) 被申立人は、昭和五二年六月二九日申立会社を被告として、当庁昭和五二年(ワ)第六〇二八号株主総会決議無効確認の訴(以下本件訴という)を提起した。右訴によると、被申立人は、申立会社の昭和五二年三月三〇日開催の第二九回定時株主総会における第一号議案(第二九期営業報告書、貸借対照表、損益計算書ならびに利益金処分案)および第二号議案(監査役全員任期満了につき三名選任)の承認決議の無効を求め、その理由として、右決議は、株主として出席した被申立人に発言の機会を与えず、混乱と怒声のうち十分な審議をなさずして、議長の独断のもとに可決された違法なものであるから、無効または取消されるべきであると主張する。

(二) しかしながら、右決議は、申立会社の発行済株式総数八、七三六万株の過半数以上にあたる株式を有する株主が出席した株主総会において、慎重審議の上賛成多数により承認可決されたものであつて、右決議に被申立人主張の如き瑕疵は存在しない。本件訴の提起は、被申立人が申立会社の株主たる地位を濫用して申立会社を害する目的をもつてなされたものである。

(三) 被申立人が本件訴を提起したことにより、申立会社はその旨を公告するため(商法第二五二条、第一〇五条第四項)、その公告費用金一六万円ならびに応訴のために弁護士費用金一〇〇万円を支出した。

(四) よつて、申立会社は被申立人に対し、申立会社が受けるべき損害を担保するために相当の担保の供与を求める。」というのである。

二そこで考えるに、申立会社提出の疎明資料によると次の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる疎明はない。

(一)  申立会社は、東京および大阪証券取引所第一部上場の資本金四三億六八〇〇万円、発行済株式総数八七三六万株のパン、和洋菓子の製造、販売を業とする株式会社であり、被申立人は申立会社の一株の株主であるが、本件訴提起後である昭和五二年九月二七日、一〇〇〇株を急拠買増し名義書換をしたこと。

(二)  被申立人は、申立会社の第二八回定時株主総会の決議((1)第二八期営業報告書、貸借対照表、損益計算書ならびに利益金処分案承認、(2)申立会社と山崎製菓株式会社および株式会社山崎製パン新潟工場との合併に関する事項の報告承認、(3)取締役一二名選任承認、(4)合併契約に基づく山崎製菓株式会社および株式会社山崎製パン新潟工場の退任役員に対する慰労金贈呈承認)についても、右決議には招集通知添付の監査報告書の記載が充分でないとか、会計監査人の監査役あての監査報告書謄本が添付されていないとかなどの独自の見解から招集手続の違法を主張し、その取消を求め、昭和五一年六月二六日当庁昭和五一年(ワ)第五四五九号株主総会決議取消の訴を提起したが、右訴訟の第一審において証拠調べをなすことなく、第三回口頭弁論期日で終結し、昭和五二年一月二五日原告の請求を棄却するとの判決が言渡され、被申立人は右判決に対し東京高等裁判所に控訴したが、控訴審においても第一回口頭弁論期日において直ちに弁論を終結し、同年五月二五日控訴棄却の判決を言渡したこと。

(三)  本件訴は、昭和五二年六月二九日前項の訴訟に引き続き、申立会社の第二九回定時株主総会における決議に対してその無効確認を求めたものであり、また、被申立人は、本件訴の理由として、右総会においては株主としての発言の機会が与えられなかつた旨主張するが、仮に、それが事実であるとしても、被申立人の求めようとした発言の内容は明らかでなく、被申立人として当時、右株主総会における決議事項について自己の株主としての利益保護のための発言の必要に迫られ、これを予定し、かつ、求めたとは認められないこと。

(四)  被申立人は、前記訴の外に株式会社丸紅、株式会社常盤相互銀行などの株主総会の決議の効力を争い、株主総会決議取消などの訴を提起し現在第一審に三件、上告審に三件が係属していること。

(五)  被申立人のこれら訴訟の提起の目的は、株主としての個々的、具体的利益保護のためになされたものではなく、被申立人自身、この種の訴については会社が反省しない限り今後も続けると抽象的に主張し、目的は専ら判例をつくることにあると広言していること。

以上の事実によると、被申立人の本件訴の提起は、被申立人が株主としての正当な利益を保護する目的を有せず、ことさらに申立会社を困らせる意図の下になされたものと推認することができるから、商法第二五二条、二四九条、第一〇六条第二項所定の「訴の提起が悪意に出たとき」に該当すると解するのが相当である。

三次に、申立会社提出の疎明資料によると、被申立人が本件訴を提起したことにより、申立会社は商法第二五二条、第一〇五条第四項によりその旨を公告し、その費用金一六万円と応訴のため弁護士を選任し、その費用金一〇〇万円を支出していることを認めることができる。

四叙上の事実によると申立会社の本件申立は理由があり、なお、その担保金額は金一一六万円が相当であるから、主文のとおり決定する。

(山口和男)

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